古野奨学金の受給者を対象とした2019年度第1回研修会が7月8日、東京・千代田区の日本プレスセンターで開かれ、学部生25人、大学院生26人の計51人が参加した。従来は9月と翌年2月の開催だったが、今回初めて7月に開いた。
研修会では、コーディネータ―を務める毎日新聞社OBの橋場義之元上智大学教授が「日米メディアの構造に関する違い」をテーマに講義。在米ジャーナリストの津山恵子氏が「ニューヨークにジャーナリストとして住む」の演題で講演した。
橋場氏はこの中で、日本では全国紙が5紙に対し、米国では国土が広すぎることもあって2紙にとどまり、地方紙は日本では約230紙に対し、米国では約5,000紙にのぼっている現状を説明。ただ米国では地方紙が7,000紙超だったものが、ネットニュースの急激な普及に伴い激減していると指摘。また、調査報道や政治など特定の分野を専門に流す、「ネットミニメディア」も急増して300を超えているとした。こうした中で、米国では2016年、ネット業界で働く従業員が新聞業界の人数を追い越したと強調した。
こうした状況から、米国の地方では議会への新聞のチェック機能が働かないことから、議会が勝手に議員報酬を引き上げ、住民がこれを知らないといった事例があるとし、米国の地方では「ニュース砂漠」が拡大している現状などを説明した。
一方、ニューヨークを拠点に、ジャーナリストやコラムニストなどとして幅広く活動する津山氏は、毎朝、目覚めるとベッドの中でアップルニュースなどに目を通し、その後、朝食後は公共放送ラジオやテレビを一日中視聴し、ネタ探しなどに当たるなど「独立ジャーナリストの一日」を紹介した。
津山氏は、「人から情報を取るのはものすごく重要」とし、そのためには「準備をすれば、どんな仕事も怖くはない」と強調。自らの実践例として、ミュージシャン・作曲家として世界的に有名な坂本龍一氏とのインタビューに際しては、同氏が出版した著作でニューヨークで手に入れられる10冊以上を入手して読んだうえ、同氏のマネージャーに頼んで雑誌での対談記事を取り寄せ、坂本氏のアルバムを全部聞いてインタビューに臨んだという。
また、パキスタン出身で2014年にノーベル平和賞を受賞したマララさんとのロンドンでのインタビューの様子を紹介。現場に行くと、7か国の記者がいて、インタビューは25分間に限定されたとか。それでも前日夜にホテルで10の質問を作って英語でいかに早く質問するかを練習したかいがあって、4問を質問でき、新聞社系の週刊誌から依頼のあった3ページものの原稿を仕上げることができたという。4問も質問をできたのは7人の記者のうち2人だけだったという。
日本では、記者会見などでは記者同士による質問の譲り合いが見られるが、海外では「譲り合いの精神は絶対ない」「怒鳴りあいで質問する」と述べ、取材合戦の激しさを強調した。
また、自らの体験を振り返りながら「好きなことを続けることが必要。自分に合ったものはこの世の中にはいくらでも転がっている。諦めないで」と奨学生を励ました。(了)