古野奨学金の受給者を対象とした2018年度第2回研修会が2月12日、東京・千代田区の日本プレスセンタービルで開催された。研修会には学部生27人、大学院生16人が参加した。
研修会では、コーディネータ―の橋場義之元上智大学教授(毎日新聞社OB)が「プライバシーの現状」と題して約1時間半講義。また、我孫子和夫元AP通信社北東アジア総支配人が「トランプ大統領の時代とメディアの役割」の演題で約1時間講演を行った。
この中で橋場氏は、個人のプライバシーが米国において権利として認識される契機となったのは、イエロージャーナリズムによる個人攻撃報道だったと指摘した。19世紀後半、有名人の私生活を暴く品のない報道を売りとするこのジャーナリズムは、それによって新聞を売ろうと新聞各社が競争した時代だった。
これに加えて、電話の発明(1876年)による電話会社の開業によって、会話の内容を聞ける立場の電話交換嬢による噂話などによって、個人情報が電話と新聞とによってメディアを通じて広まるようになったと説明した。ただ、プライバシーについては、言葉そのものがあいまいなうえ、個々人によっても受け止め方に違いがあり、「プライバシーの定義をめぐって論議されているのが現在だ」と述べた。
また、橋場氏は、米国で優れた報道などに対して贈られる「ピュリッツアー賞」に関して、ニューヨークの新聞発行人だったピュリッツアー氏の遺志に基づき1917年に創設されたが、同氏は「新聞社の社長としてイエロージャーナリズムの張本人だった」と述べ、奨学生を驚かせた。
我孫子氏は、2016年の英国でのEU離脱に向けた国民投票、米大統領選挙において、離脱派の政治家やトランプ大統領が、事実を無視する発言を繰り返し、多数の支持を得ることに成功したと強調。こうした「ポストトゥルース」(真実軽視の時代)の中で、社会の分断化が進み、メディアへの不信が増大しているとも指摘した。
さらに、政治的対立軸が従来の左右だけでなく、社会の上層(エリート)と下層(民衆)が「四つ巴」で対立する構図が現れているとした。
これに関して、トランプ大統領の対メディア攻撃などについて「彼の発言は小学校5、6年生程度のボキャブラリーで、それが教育水準の低い人にとってもわかりやすい」と述べた。
こうした中で、メディア側が取るべき対応として我孫子氏は、「政治的に分断され、虚報や誤報が瞬時に広まる時代だからこそ、公正で信頼できる報道が一番重要」と強調。さらに、「自分が正しいと信じることをしていれば、間違うことはない」との米国作家のマーク・トウェインが残した言葉を紹介し、マスコミ研究者や記者志望の奨学生を励ました。
この後開かれた懇親会では、学部生、大学院生で卒業、修了者の代表がそれぞれ奨学金への謝辞を表明。また、奨学生OGの東大大学院助教らが参加し親しく懇談した。 (了)